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ビルマから来た少女
タイで働いてた時、オフィスに私あての英語の電話が入った。
「I have no money,no house.」電話の向こうで彼女は叫んだ。

彼女がバンコクに来てることは手紙で連絡があった。しかし電話で話すのはそのときが初めてだった。ビルマ人の彼女はこの異国のタイでほかに知ってる人がいなかったらしい。私はどうにかしてやるといって彼女の住所を聞き電話を切った。

仕事が終わってタクシーで彼女の言った住所を尋ねた。バンコクの郊外の静かな住宅地に着いた。アパートの2階から彼女は顔を出した。そして荷物をいっぱい詰め込んだカバンと一緒に降りてきた。とりあえずタクシーに乗り込み話を聞いた。

彼女と知り合ったのはその3年前。ビルマに旅行に行ったときラングーンのYMCAに泊まった。ちょうど日曜日にYMCAで結婚式があった。

おもしろそうだから入り口から中を覗いてたら一人のビルマ人の女性が声をかけてきた。「私の友達の結婚式です。良かったら一緒に来ませんか?」「えー、いいのかな、私は全然関係ない人だけど」と思いもしたのだけどこんな機会はめったにないと彼女と一緒に中へ入っていった。ビルマの結婚式ってこんな感じなんだと思いながら、写真をいっぱい撮り、アイスクリームをごちそうになった。

その彼女が友達を紹介してくれた。そしてその友達が私を家に招待してくれた。お昼を一緒に食べようとのこと。その家はムスリムでビリヤニをごちそうしてくれた。その家の妹がタイに来たのである。

そのころはまだ平和な国と思ってたのだけど、アジアで最貧国といわれるくらいビルマの経済は貧しかった。そしてその数年後ビルマが大きく動き出した。政府に不満を持つ人たちが立ち上がった。アウンサンスーチー氏を推す民主化を要求するデモ隊に軍隊が発砲するという事件が起きた。戒厳令がひかれ、民主化を進めようと人たちの弾圧が始まった。そして今後のビルマに不安を持った人たちがタイに政治難民としてたくさん逃げ込んできてたのである。

彼女もその一人である。
本当は家族みんなでタイに来たかったのだが事情があり彼女一人が先にやってきたのである。そして先に来てた友達の家に居候してたらしいが、問題があって出なければならなくなったらしい。とりあえずホテルにつれて帰った。お金はあるのか聞いてみた。
多少はあるだろうがこれからずっとビルマを離れ、一人で生きていかなけばならない彼女にとって十分なお金額かは誰にも解らない。

彼女はビルマから持ってきたヒスイを見せてくれた。中国人はヒスイが好きだから売れば多少のお金になるといっていた。とりあえず当座のお金だといって500バーツを彼女に渡した。

朝は8時前には仕事に出かける。鍵はフロントに預けておくように彼女に言ってある。
昼はいないので自由に使っていいよ、と言ったとはいえ、ここはジュライホテルのシングル。そんな広いというわけでもないが。仕事から帰ってきて食事につれていった。
「何がいい?」と聞いても彼女は何でもいいと答え、その後に「No pork」と言った。
彼女はムスリムなのだ。

数週間が過ぎたある日、彼女は友達だと言ってもう一人女の人を連れてきた。彼女も泊まるとこがないのでおいてくれとのこと。エー、もう一人?と思ったがおいてやることにした。しかし次の日ホテルから言われた。「シングルの定員は2名だ。3人はだめだ」と。事情を説明してその女の人には出ていってもらった。

一人で寂しいのかビルマ人の友達を部屋に呼んでるようだと友達が教えてくれた。たぶん同じような境遇のビルマ人がたくさんいるだろうと思って気にしなかった。知り合いのいないホテルの部屋で一人でいるのは寂しいだろう。家族は皆ビルマにいるのだ。

何ヶ月かした時彼女はこういった。「仕事が見つかった。住み込みの仕事だからそこに移る。」と彼女もただのんびりといるわけにもいかない。タイで一人で生きていかなければならない。昼間は仕事を探していたらしい。そういって彼女は出ていった。

何ヶ月か過ぎたある日、彼女のお姉さんから電話が入った。彼女もやっとビルマから出られバンコクに来たのだ。カオサン通りの旅行代理店で仕事も見つかった。いま妹と一緒に住んでると。一度その旅行代理店に行ったけど店が閉まってて彼女には会えなかった。

しばらくたったある日曜日の午後、彼女が部屋に訪ねてきた。「母が会いたいと言っている」と。下に降りてみると彼女の母親という人に挨拶をされた。「娘が世話になりました。」彼女のお母さんもビルマを離れたのだ。私は照れながら気にしないでいいといい、
それよりも彼女にお母さんもこれて良かったねと言った。彼女はちょっとうれしそうな顔をした。

しかし父親はまだビルマにいていつタイに来られるか解らないと言う。そしてこれから彼女の家族はこのタイでくらしていかなければならない。自分の生まれた国を離れ異国の地での生活を選んだ彼女たちの勇気ある決断に驚く。

おなじ異国のタイの地で暮らす日本人とビルマ人。同じバンコクに住んでるとはいえ、日本で稼いだわずかな金で悠々旅行をしてラッキーに仕事が見つかり働いてる私。それとは全然違う厳しい状況の中で住む彼女たちの強さに脱帽する。
彼女たちの強さを見習わないと。


  
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